医療と介護について

「講演の内容」

いのちとくらしを守る地域づくり


地域包括ケアシステムと

在宅ケアを支える診療所・市民の役割

第20回記念大会 全国の集いin岡山2014


 

 

●岡山発!地球全体から見た在宅医療・介護の世界

講演:菅波 茂 (AMDA理事長)

 

日本で介護保険が開始した時の最大の問題は保護保険のサービスの利用の前に地域住民の「意識改革」でした。次の3点です。

①介護を担当する長男の嫁に対する家族や地域からの非難。

②天災にも匹敵する介護の基礎技術の欠如。

③地域相互扶助の育成。

次の問題となったのが認知症に対する理解と取組でした。最後の難関は地域各種団体で構成する多業種の協力体制づくりでした。

 

私の良い施設の定義は3点です。

①職員の家族利用。

②地域住民の利用。

③地域住民のボランティア率。

 

最悪が施設のドーナツ化現象です。

地域医療及び介護の多業種協力体制の中核は地区医師だと思っています。日本の地区医師会は公益政策を担っています。世界には日本の医師会のように公共政策を担っていません。ちなみに、「公益とは有ればみんなの役に立つ。公共とは無ければみんなが困る」です。

 

私は岡山市の北部に位置する御津医師会長を2年間勤めました。御津医師会「地域医療を守る」相互扶助プログラムを実施しました。特に有事医師派遣制度を紹介します。今では他の2つの地区医師会と合併で実施しています。医師会員の相互信頼感が強まりました。この制度は世界でも初めてです。

 

中華人民共和国は昨年から老人福祉を開始しました。予算は軍事費を超えています。浙江省から全国人民大会委員が岡山に視察に来られました。私も浙江省から寧波市の施設を視察しました。ベトナムでは来年度から看護師が介護士として日本に来られるようになりました。ホーチミン市にある175(陸軍)病院および提携している人材派遣業の国営企業を視察してきました。他の東南アジアや南西アジアの老人福祉や介護事情をAMDA internationalの支部長から拝聴しました。

 

結論は日本が一番進んでいます。各国にはそれぞれのモラルにもとづいた社会慣習があります。

日本は次の3点です。

①他人に迷惑をかけない。

②正直。

③困ったらお互いさまの相互扶助。

「地域相互扶助」は古くて新しいユニバーサルなコンセプトです。世界各国から日本に「多業種協力体制の地域医療と地域介護」を視察研修に来る時代になったと思います。先般もハーバード大学公衆衛生大学院23名を岡山に受け入れました。

                                

●認知症の方の底力を地域に生かす。

(一人で歩けば徘徊、みんなで歩けば地域防犯隊)

講演:多湖 光宗 医療法人 創健会 ウエルネス医療クリニック 院長

 

・世代間交流を手法とした認知症治療ケア

2011年6月の日本老年精神医学会でピーター・ホワイトハウス教授の特別講演「The international School(TIS 世代間交流校という革新的アプローチを世界で初めて取り入れる」と紹介されていた。我々は1996年より高齢者ケア(デイケア)と子育て(学童保育、事業所内保育など)との相乗効果をならった世代間交流を開始。また、2001年6月より学童保育(放課後児童健全育成事業)を認知症グループホームに移転し、The international Afterschoolを創設。生活交流を通じて、多様な役割を創出する能力活用療法を開始。その効果に驚き、様々な発表を行なってきた。

 

・認知症高齢者の役割づくりと社会貢献

認知症高齢者は、さまざまな能力を持っているが、労働として仕事ができるほど体力や根気があるわけではない。また、命令やお金で動くわけではないので能力を活用するには体調管理と「しつけ」が重要である。認知症高齢者が得意なことやできることで、周りから必要とされることをすると、周囲から感謝され自信が回復する。自信が回復すると活動性が高まり、生き生きとする。また感謝される役割ができると、それが生きがいになる。しかし、失敗すると自信がなくなるので、失敗しない条件設定が大事。これは「脳活性化リハビリテーション」の原則(快刺激、ほめる、コミュニケーション、役割、誤りをさせない課題)と回想法を、あの手この手で日常的に行なうことでもある。また、認知症特有の行動障害の「繰り返し」が子どもの「しつけ(しつづけるが語源)」に役立ち、認知障害の「トンチンカンさ」が癒やしとなり、ひきこもりなどの青少年の育成に役立つ。我々が取り組んでいる具体例としては、

①「かまど」でのごはん炊き

②家事(食事づくり、掃除、裁縫)

③生き物の世話(農作業、庭の手入れ、乳幼児・障がい児の世話)

④何回も「教える、ほめる、しかる」→子どもの「しつけ」、青少年の教育

⑤パトロール(徘徊→散歩→防犯パトロール)

⑥整理・整頓(収集癖→ゴミ拾い、整理・整頓)、地域清掃など・・・・・・。

 

認知症の底力を地域に生かし、本人が周囲から感謝されたり、賞賛をあびるようになることは、認知症の人の尊厳を守るだけでなく、自ら尊厳を獲得することにもなる。また、介護をするだけでなくさまざまな能力(abilities)を見いだし、社会に役立てることに取り組むことが必要である。

 

●三門学区「地域のみんなでつながり隊」

    ~わたしたちの役割~

講演:峰松 妙 岡山市立岡西公民館長

 

岡西(こうざい)公民館のある三門学区は、JR岡山駅から西に役1キロに位置している。東西と南北を走る幹線道路があり交通量が多い。JR線・路線バスも通っていて交通の便が良く、スーパー・飲食店なども多く、学校園・医院も充実し、生活の利便性が高い学区といえる。しかし、三門学区総人口のうち65歳以上が全体の四分の一を占め、その大部分が70歳以上で一人暮らしが多いという特徴がある。こうした背景の下、国の施策は在宅医療・在宅介護へ進み。ますます地域で生活する高齢者が増えていくことが考えられる。

 

そこで、日常のちょっとしたことで困っている高齢者と、人の役に立ちたいと思っている地域住民をつなげるために、『今地域に必要なことは何か』をテーマにした連続講座を公民館で開催。地域住民とともに学び、その後は実際の活動に移すための話し合いを重ね「地域のみんなでつながり隊」が2014年2月に発足した。

「つながり隊」が最終的に目指しているのは、お互いが支え合えるような関係性のある地域である。地域住民が活動主体となり、助け上手と助けられ上手が共に支え合う地域に向けて活動している。

 

成果も見えはじめ、活動する人は、自分の力を役立てることができ、喜ばれることが「生きがい・やりがい」となり、自信につながっている。利用する人は手伝い活動で困りごとが解消するだけでなく、メンバーとの会話などを通して自信が地域とつながっている安心感を持っている。少しずつ地域住民が「地域での支え合いが必要」と実感しはじめている。

 

このように「つながり隊」活動がきっかけとなり、人・地域が変わりはじめているが、取り組んでいかなければならない課題もある。持続可能な活動にしていくために、この地域に帰って自分も「つながり隊」の一員として活動に参加したいと思う人が出てきて欲しいと願っている。

  

●「支える」から「支え合う」

 ~サロン「なんだ村」の取り組み~

講演:八田 和明 NPO法人ホッと灘崎ボランティアネット理事長

 

2008年4月、岡山県南部人工約15,000人の旧灘崎町にある古民家を改修してサロン「なんだ村」は誕生しました。地域の高齢者の皆さんに憩いの場を提供し、私たちはボランティアとして支えて行く、それが私たち自らの手で出来ないか。2006年4月にNPO法人「ホッと灘崎ボランティアネット」を立ち上げて暗中模索をしながら、そんな思いをなんとか具現化できたのが、サロン「なんだ村」でした。

 

無知、無謀を承知の上で始めた活動でしたが、想像以上に多くの問題に直面してきました。福祉有償運送事業の体制整備、いざと言う時の医院等の連携やご家族への連絡体制などの緊急連絡網の整備はとても重要な課題でした。また、介護施設や単なるお食事処に間違えられることもありましたし、そうした施設と比較されることもしばしばありました。でもその度に、安達村長以下30名を超える地域ボランティアの皆さんに支えられ、利用者の皆さんからは励まされ、振り返れば早7年目をここに迎えることが出来たのだと思います。

 

ご高齢になってお家で塞ぎ込むことが多くなった方が、ご家族の勧めで「なんだ村」にお越しになることも多いのですが、イベントや昼食時に利用者の皆さんとふれ合ううちに、次第に明るく元気になられていくのを見ていると、こちらも自然に笑顔になってきます。地域外から視察に来られた方に、「お年寄りの顔色や元気さが全然違う」と言って頂けることも多く、それもまた私たちの活力となっています。

 

まだまだ足りないところも多く、今後に課題も山積みしていますが、私たちの活動を長く継続していくためにも今、支え合いの仕組み(ネットワーク事業)を構築中です。これは、「なんだ村」や福祉有償運送の利用者の方、ボランティアや法人会員の方からお預かりした年間1000円の賛助会費を主な原資として、ボランティア活動に参加していただいた方1時間につき、「なんだ村」通貨「50ボラン」を積み立てるというものです。積み立てた「ボラン」は1ボラン1円として当施設が管理し、当法人の様々な事業の利用料として使うことができ、これはもうすでに利用が始まっています。

 

今後はこうした施策をもとに、いまよりもっと地域に密着することを目指し、利用者やそのご家族の方、ボランティアの方々や運営者である我々が、より近く強い絆で結ばれ、人として生きる喜びを共に持てるように、更に地域を巻き込んだ活動を広げて行きたいと思っております。

 

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